Q:家族信託の最大の利点は何ですか?

A:最大の利点は、信託した財産については、様々な対策を個別に行う必要がなくなり、家族信託のみで足りるようになることです。


①いまは元気だが、判断能力等が低下した場合に備えて、元気なうちに財産管理を任せる方法には、「財産管理委任契約」があります。
②判断能力が低下した場合の財産管理としては、「成年後見制度」の利用があります。
③自身が死亡した場合の財産の相続人を決めるのは、「遺言」によることになります。

信託法が平成18年に大幅に改正される以前は、上記の①~③のケースごとに、それぞれの対策を採るしか方法がありませんでした。しかし家族信託では、①~③のケースに対応するため、1つの信託契約の中でまとめて定めておくことができます。

家族信託により、自身が元気なうちから、「財産管理委任契約」によることなく、信頼できる家族に財産管理を任せることができます。
また、家族信託契約後に判断能力が低下して認知症になった場合でも、「成年後見制度」によることなく、家族が引き続き財産管理を行っていくので、資産運用が凍結されることはなく、財産管理には支障が生じません。
さらに、家族信託には遺言と同様の機能があるため、「遺言」によることなく、自身の相続が起こった時に、誰にどの財産を引き継がせるかまで定めておくことができます。

ただし、次のQ&Aのとおり、信託財産以外については別途遺言が必要となることがあります。


Q:家族信託をしておけば、遺言は不要ですか?

A:家族信託により管理・処分できるのは信託財産になった財産のみです。


家族信託では、必ずしも全財産を信託する必要はなく、どの財産を信託財産にするかは委託者の意思により決められます。ですので、信託財産以外の財産については、誰に相続させるかは遺言によって決めておく必要があります。


Q:家族信託契約書は公正証書で作成しなくてはいけませんか?

A:家族信託契約書は、法律上は私文書でもよく、公正証書で作成しなくてもよいこととなっています。しかし、家族信託契約に基づいて金融機関で受託者名義の口座を開設する場合、公正証書による信託契約書でなければ、金融機関は口座開設に応じないのが現状です。


また、信託契約書の内容について、後になって利害関係人が不服を持ち、信託契約当時、委託者に判断能力があったかどうかを争うなど、問題が生じることがあるため、公正証書で作成するのが原則です。

公正証書は、公証人が委託者と面談したうえで、委託者の判断能力を確認してから作成する公文書であるため、後日、利害関係人が信託契約の効力を争ったとしても、その効力を否定することは非常に難しくなります。


Q:同じ財産に関して「家族信託」と「遺言」の二つがあった場合、どちらが優先しますか?

A:「家族信託」と「遺言」の先後を問わず、「家族信託」が優先します。
 
先に遺言で相続人を指定した財産につき、後に改めて家族信託をした場合、遺言と抵触する財産処分により遺言は撤回されたものとみなされますので、家族信託が優先します。

 また、先に家族信託により相続人を指定した財産につき、後に改めて遺言をした場合、委託者のものではなくなった財産(すでに信託財産となったもの)を遺言で処分することはできなくなるため、 やはり家族信託が優先します。


Q:自分が亡くなったとき(一次相続時)の相続人のみならず、その相続人が亡くなったとき(二次相続時)のことも決めておく方法はありますか?

A:遺言により、自身の相続発生時(一次相続時)に誰にどの財産を相続させるかを決めておくことができます。しかし、遺言で決められるのは自分の次の代(例:自分の子の代)までです。自分の財産を相続したもの(例:子)が死亡したとき(二次相続時)の財産の承継先を決めておくことはできません。

なぜなら、親の財産を相続した時点で、その財産は子のものになり、誰にどの財産を相続させるかを決めるのは子になるからです。もし遺言の中で、子が死亡したとき(二次相続時)の相続人を指定したとしても、その部分の遺言は無効になります。

これに対して家族信託では、遺言では実現不可能だった二次相続時の財産の承継人の指定が可能となります。例えば、自分の子が亡くなったときは孫に財産を承継させる、という指定が、家族信託では可能になります。


Q:「法定後見制度」と「家族信託」との違いは何ですか?

A:法定後見制度は、裁判所が選任した後見人が、判断能力が薄弱になった本人に代わり財産の管理などを行います。後見人には、家族等が希望した候補者が選任されるとは限らず、弁護士や司法書士などの第三者が選任されるケースが大半です。

一方、家族信託は、本人が元気なうちに、本人が信頼している人に財産を託して、その人が財産の管理を行うことになります。つまり、後見人のような第三者が突然介入してくる事態を避けることができます。

また、法定後見制度は本人の不利益になるような財産管理・処分は行えず、原則として本人の利益になる財産管理・処分しか行えません。例えば、それが、判断力が健全であったときの本人の強い希望であったとしても、本人の財産を子や孫に贈与するようなことはできなくなります。
それに対して、家族信託の場合は、本人の希望に基づいた柔軟な財産管理・処分を行うことができ、本人の判断能力がなくなった場合でも、財産を子や孫に対して引き続き贈与することも可能になります。


Q :法定後見制度の利用を避けるためには

A:本人に認知症の初期症状が出てきた場合、早急に対策を講じる必要があるでしょう。 例えば親がすでに介護施設などに入所していて、軽い認知症が見られる場合であっても、必ずしも契約能力がないとは言えません。
最終的には専門医による診断が必要になりますが、認知症の初期症状の場合であれば判断能力が認められることがありますので、判断能力があるうちに家族信託をすることで、資産の名義を例えば長男に変えておけば、本人に代わって長男の名義で種々の契約をすることが可能となります。

認知症が進行し、親である財産所有者が完全に認知症になってしまい、判断能力が認められない状態になりますと、例えば不動産の賃貸や売却などの契約はできなくなります。また、相続対策としての生前贈与もできなくなります。
このような状態になった場合、不動産や預金等の処分をするには法定後見制度を利用する以外に方法がなくなります。